(少なくとも現状の)マイクロマウスなどのロボットは、剛体とみなす事ができるので、剛体の動きを理解しておくことが重要です。
重心を中心に剛体の運動を考えると、運動を簡単に記述できます。 運動には大きく分けて二種類あり、
の2つです。
並進運動というのは聞きなれないかも知れませんが、x, y, z 軸のそれぞれの速度を持った普通の運動の事です。 直線運動とも呼びます。
質点の運動を考える時は、これのみを考えている事になります。x, y, z軸の位置と、その時間による微分、2階微分で運動が表現されます。
回転運動は書いて字のごとく、回転する運動です。質点と比べると、剛体は大きさ、形ができたので回転を考える必要があります。
Pitch, Yaw, Roll の3つの軸の角度と、その時間での微分、2階微分で表します。各軸の配置などは検索してみてください。
マウスなどの平坦な地面を走行するロボットでは、x, y, yaw の3つの軸が要となります。
これについては、質点の運動と同じです。質量mの剛体に対して、
力ベクトルF、加速度ベクトルαを使って、 mα = F が成り立ちます。
回転における並進運動の質量のような位置付けの、慣性モーメントIという量を考え、
モーメント Nが加わった時、角加速度Δωとの間には、 IΔω=N なる関係が成り立ちます。
モーメントは、N = r×F で表されます。rは重心からの距離です。
下の図を用いて考えて行きます。
このモデルはとりあえず簡単のため、タイヤ(力の作用点)と、重心が一直線上に並んでいるモデルとなっています。
ものすごく簡単に考えるために、とりあえず平面上の運動のみを考えましょう。
上の剛体の力学でほとんど出尽くしている気もしますが、ロボットがどんな動きをするかを考えて行きましょう。
ロボットに働く力には、次の4つがあります。
F = mg で表されます。重心にかかります。
重力と釣り合う力です。
タイヤやテフロンテープ、カグスベール等の地面と接触する面で発生します。
F = mrω2
F = mv2/r
F = mvω
等、様々な表し方のある力です。
ロボットでは、エンコーダを用いてvを、ジャイロを用いてωを精度よく計測できるので、F = mvω で考えると都合が良いです。
グリップ力です。
グリップ力については様々な議論がありますが、とりあえずここでは古典的な静止摩擦力、動摩擦力の考え方で進めましょう。
静止摩擦力の Fmax = μN(Nは垂直抗力)です。
今回はタイヤのグリップ力を、静止摩擦力-動摩擦力という単純なモデルで考えています。
従って、期待通りの動きをする = タイヤが生み出す力FがμNを超えない となります。
今回は、重心がタイヤの中心 かつ 重心の高さ=0 で考えるので、荷重は全てタイヤにかかります。
つまり1つのタイヤにかかる力は mg/2 となるので、滑らずに支えられる力はμmg/2です。
上で示したように、荷重は当然タイヤが支えます。
後は加速と、角加速度を生み出すための力、そして遠心力に耐えなければなりません。
前方向を正とした加速度をα、反時計回り(CCW)を正とした角加速度をΔω、現在の速度をv、角速度をωとした時、それぞれに必要な力は
ただし、Tはトレッド幅 左右のタイヤにかかる力の絶対値は、それぞれ
FR = sqrt( (Fα + FΔω)2 + Fω2 )
FL = sqrt( (Fα - FΔω)2 + Fω2 )
と計算でき、それぞれが μmg/2 よりも小さければ滑らずに走行できるという事になります。
αやv、Δω、ωが同じ時、FRやFLはm、Iが小さければ小さいほど小さくなります。
つまり、mやIが小さいほど少ない力で同じ動きを実現できます。
タイヤの最大静止摩擦力はμmg/2なので、mはあまり関係なくなりますが、慣性モーメントIは重量と関係する値なので結局軽く作ったほうが有利になることに間違いはないでしょう。